運動量と力積

運動量

物体の運動は、物体の速度が大きいほど、また、物体の質量が大きいほど、激しいといえます。よって、物体の運動の激しさを表すとき、速度と質量を掛け合わせた量を用いるのが妥当です。この量を運動量といいます。

物をぶつけて何かを壊そうとするとき、速度が大きいほど、質量が大きいほど、つまり運動量が大きいほど壊しやすいです。
運動している物体を静止させようとするとき、速度が大きいほど、質量が大きいほど、つまり運動量が大きいほど静止させにくいです。

物体の運動量を \(\vec{p}\) なぜ量記号に p を用いるのかはっきりした起源は不明ですがラテン語の impetus あるいは petere から来ているという説があります。pet- には求める、向かうという意味があるようです。
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、質量を m [kg] 、速度を \(\vec{v}\) [m/s] 、速度の向きが運動量の向きであると定義すると以下のように表せます。

運動量

 \(\vec{p}\) = m\(\vec{v}\)

運動量の単位は [kg⋅m/s] です。

この運動量という量は運動エネルギー \(\large{\frac{1}{2}}\)mv2 に似ています。違いは、速度に比例か速度の2乗に比例かということと、向きが定義されているかどうか(ベクトルかスカラーか)ということです。(『同質量、同速度で向かい合い、e = 0』参照。)

力積

力積

運動の勢い(運動量)を変化させるには物体に力を加えればいいわけですが、このとき、加える力が大きいほど運動量は大きく変化します。またこのとき、力を加えている時間が長ければ長いほど運動量は大きく変化します。よって、運動量を変化させる効果のある量を考えるとき、力と時間を掛け合わせた量を用いるのが妥当です。この量を力積(りきせき)といいます。

物体に、10N の力を 2.0秒間加えて加速させたときと、5.0N の力を 4.0秒間加えて加速させたときの運動量の変化量は一緒です。

力積を \(\vec{I}\) impulse(衝動)の I
高校物理ではこの量記号はあまり使わないようです。力積といったら FΔt 、と覚えてしまってください。
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、加えた力を \(\vec{F}\) [N] 、加え続けた時間を Δt [s] 、加えた力の向きが力積の向きであると定義すると以下のように表せます。

力積

 \(\vec{I}\) = \(\vec{F}\)Δt

力積の単位は [N⋅s] です。この単位は上の運動量の単位 [kg⋅m/s] と同等です。運動方程式 ma = F よりその単位は [kg⋅m/s2] = [N] 。よって [N⋅s] = [kg⋅m/s2⋅s] = [kg⋅m/s] です。

同量の力積

縦軸に力、横軸に時間をとったグラフにおいて、10N、2.0s のときの力積の量を表しますと、左図の青の部分の面積となります。

5.0N、4.0s の場合の力積を表すと左図のようになります。その面積は上図と同じです。


撃力

野球においてバットでボールを打つときや、ゴルフにおいてクラブでボールを打つときのように、短い時間だけはたらく大きな力を撃力といいます。

このとき力が一定でなくても、もし F-t グラフが描けるようであれば、その力積を表す面積(力の積分値)と同じ面積の長方形の縦辺の長さとして、撃力の平均の値が導き出せます。

力積の値は運動量の変化から求められますので、それを時間で割っても撃力の平均値を求めることができます。(下参照)


運動量と力積

運動量と力積の関係

質量 m [kg] の物体に一定の力 F [N] が Δt [s] 間はたらいて、速度が v [m/s] から v' [m/s] に変化したとします。

このときの加速度 a [m/s2] は a = \(\large{\frac{v'-v}{\Delta t}}\) ですから、運動方程式は、

    m\(\large{\frac{v'-v}{\Delta t}}\) = F

両辺に Δt を掛けて、

    mv' - mv = FΔt

この式の右辺はまさに力積であり、この式は運動量の変化は力積に等しいということを示していることになります。

この関係式は運動方程式を変形させただけのものであるので、力積というものは運動方程式によって定義されるもの、ということができます。

そして、上で説明したように運動量も力積もベクトルでありますから、この関係式をあらためて書き直すと以下のようになります。

物体の運動量の変化は、その間に受けた力積に等しい

 m\(\vec{v}\)' - m\(\vec{v}\) = \(\vec{F}\)Δt

この関係は運動量の原理と呼ばれることがあります。

直線運動における運動量と力積

単純な場合(右向き正、以下同様)

  mv' - mv = FΔt

速度が減少する場合

  mv' - mv = - FΔt

向きが 180° 変わる場合

  - mv' - mv = - FΔt


平面運動における運動量と力積

壁に斜めに衝突する場合

  m\(\vec{v}\)' - m\(\vec{v}\) = \(\vec{F}\)Δt

ベクトルの加法と減法 参照)