運動量保存と力学的エネルギー

運動量保存と力学的エネルギー

運動量保存≠力学的エネルギー保存

物体の衝突において、運動量が保存される場合でも、力学的エネルギーが保存されない場合があります力学的エネルギーには運動エネルギーと位置エネルギーがあるのですが、この場合、位置エネルギーについては考えません。一定とみなします。物体の衝突について考えるときは、衝突直前から衝突直後のほんの一瞬の時間についてだけ考えるので、位置は変化していないとみなします。
物体の衝突について考えるときは、力学的エネルギーというのは実質的に運動エネルギーのことです。
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。本項ではそのことを説明します。

以下のような例で考えていきます。

片方が静止していて、e = 0

速度 v 、質量 m1 の物体Aが、速度 0(つまり静止)、質量 m2 の物体Bに完全非弾性衝突e = 0)し、合体し、速度 v' になったとします。

このときの衝突前の力学的エネルギーは、

  (物体Aの運動エネルギー)+(物体Bの運動エネルギー)= \(\large{\frac{1}{2}}\)m1v2 + \(\large{\frac{1}{2}}\)m2⋅02 = \(\large{\frac{1}{2}}\)m1v2  ……①

次に衝突後の力学的エネルギーを求めます。まず、衝突後の速度を求めるために運動量保存の法則の式を立てます。

    m1v + m2⋅0 = m1v' + m2v'

 ∴  m1v = (m1 + m2) v'

 ∴  v' = \(\large{\frac{m_1}{m_1+m_2}}\)v

よって衝突後の力学的エネルギーは、

    \(\large{\frac{1}{2}}\)(m1 + m2) v' 2

   = \(\large{\frac{1}{2}}\)(m1 + m2)\(\large{\{\frac{m_1}{m_1+m_2}}v\}\small{^2}\)

   = \(\large{\frac{1}{2}\{\frac{m_1{^2}}{m_1+m_2}}v\small{^2}\large{\}}\)

   = \(\large{\bigl(\frac{m_1}{m_1+m_2}}\large{\bigr)}\)⋅\(\large{\frac{1}{2}}\)m1v2  ……②

\(\large{\frac{m_1}{m_1+m_2}}\large{}\) < 1 であるので ① > ② 。

つまり、衝突後の力学的エネルギーの方が小さくなっています。

物体Aがとても重くて物体Bがとても軽いときは、\(\large{\frac{m_1}{m_1+m_2}}\large{}\) ≒ 1 であり、力学的エネルギーに大きな変化はありません。逆のときは、\(\large{\frac{m_1}{m_1+m_2}}\large{}\) ≪ 1 であり、力学的エネルギーはとても小さくなってしまいます。物体Aと物体Bが同じ重さのときは、力学的エネルギーはちょうど半分になります。

同質量、同速度で向かい合い、e = 1

同質量、同速度厳密ないい方をしますと、「速度の大きさが同じで向きが逆の2つの物体」です。「同速度」といいますと向きも同じという意味になってしまいますので本当はダメです。
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で向い合って弾性衝突e = 1)する2物体の力学的エネルギーを考えてみます。

質量を m 、速度をそれぞれ v 、- v とします。

衝突前の力学的エネルギーは、

    \(\large{\frac{1}{2}}\)mv2 + \(\large{\frac{1}{2}}\)m(- v)2 = mv2 (- v)2 と書いたのはわかりやすくするためであり、答案を書く際には普通に v2 として構いません。
あえて書くなら (|-v|)2 でしょうか。
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衝突後の速度はそれぞれ - vv だから、衝突後の力学的エネルギーは、

    \(\large{\frac{1}{2}}\)m(- v)2 + \(\large{\frac{1}{2}}\)mv2 = mv2

よってこの場合は、衝突の前後とも力学的エネルギーが mv2 で変化がありません。e = 1 のときは力学的エネルギーが保存されるのです。よくはねかえるときは、力学的エネルギーがよく保存されるのです。

同質量、同速度で向かい合い、e = 0.5

同質量、同速度で向い合って反発係数 e = 0.5 の衝突をする2物体の力学的エネルギーを考えます。

衝突前の力学的エネルギーは、

    \(\large{\frac{1}{2}}\)mv2 + \(\large{\frac{1}{2}}\)m(- v)2

   = mv2

衝突後の速度はそれぞれ -0.5v 、0.5v 運動量保存の法則より
  mv + m(- v) = mv1' + mv2'
∴ 0 = v1' + v2'
e = 0.5 だからこれを反発係数の式に代入すると、
  0.5 = - \(\large{\frac{v_1{'}-v_2{'}}{v-(-v)}}\)
∴ 0.5⋅2v = - v1' + v2'
∴ v = - v1' + v2'
ここに、上で求めた v2' = - v1' を代入して、
  v = - v1' - v1'
∴ v = - 2v1'
∴  v1' = - 0.5v
同様に v1' = - v2' を代入して、
  v = - (- v2') + v2'
∴ v = 2v2'
∴  v2' = 0.5v
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だから衝突後の力学的エネルギーは、

    \(\large{\frac{1}{2}}\)m(-0.5v)2 + \(\large{\frac{1}{2}}\)m(0.5v)2

   = \(\large{\frac{1}{2}}\)⋅0.25⋅mv2 + \(\large{\frac{1}{2}}\)⋅0.25⋅mv2

   = 0.25⋅mv2

力学的エネルギーは \(\large{\frac{1}{4}}\) しか残らないということです。\(\large{\frac{3}{4}}\) は熱エネルギーになってしまったということです。物体の温度が上昇したということです。

同質量、同速度で向かい合い、e = 0

同質量、同速度の2物体が向い合って完全非弾性衝突e = 0)をする、つまり合体する場合の力学的エネルギーを考えます。

衝突前の力学的エネルギーは、

    \(\large{\frac{1}{2}}\)mv2 + \(\large{\frac{1}{2}}\)m(- v)2 = mv2

合体後の速度は 0 『2物体の反発係数』項の『e = 0』の『m1 = m2』参照
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だから衝突後の力学的エネルギーは、

    \(\large{\frac{1}{2}}\)(m + m) v2 = \(\large{\frac{1}{2}}\)(m + m)⋅02 = 0

力学的エネルギーはまったく残らず、すべて熱エネルギーになってしまったということです。

この例では、運動量の和は衝突前も衝突後も 0 衝突前の運動量の和は
  mv + m(- v)
で、
衝突後の運動量の和は
  (m + m)⋅0
です。
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です。力学的エネルギーの和は衝突前は mv2 で衝突後は 0 です。

力学的エネルギーは保存されないが

このように、物体の衝突において、運動量が保存されても力学的エネルギーは保存されなかったりするわけですが、力学的エネルギーが減った場合には、その分、熱エネルギーが増えてます。エネルギーの総量は変わらないのです。保存されているのです。エネルギーの名称が変わるだけです。

つまり、原則としては、運動量もエネルギーも保存されるのです。力学的エネルギーがたまたま保存されないだけです。

また、運動量もエネルギーも物理現象を分析するのに欠かせない量ですが、その大きな違いとしては、運動量は運動を方向別に考えることができる量で、エネルギーは他のエネルギーに変換することができる量、ということが挙げられます。

東西方向の速度はどのくらい変化するのか、南北方向の速度はどのくらい変化するのか、ということを分析するのには運動量を用いるのが便利ですし、どのくらいの高さから落としたら、どのくらいの速さになるか、とか、どのくらい引きずったら、どのくらいの温度になるか、ということを分析するのにはエネルギーを用いるのが便利です。