傾きの角 θ のなめらかな斜面上に、ばね定数 k のばねの上端を固定した。図1のように、ばねの他端に質量 m の物体を取りつけたところ、ばねが自然の長さから x0 だけ伸びて、物体は点P0で静止した。ただし、ばねの質量は無視でき、重力加速度の大きさを g とする。
(問1)ばねの伸び x0 はいくらか。
(問2)次に、物体を点P0から斜面に沿って距離 x だけ上方へ引き上げて静かに手を離すと、物体は下方に滑りはじめた。物体が再び点P0に達したときの物体の速さはいくらか。
(問3)問2で物体が滑りはじめた後、ばねは自然の長さから最大いくら伸びるか。また、そのときの物体の加速度の大きさはいくらか。
#センター08追試
(問1)ばねの伸び x0 はいくらか。
ばねは x0 だけ伸びているのだからその力は kx0 。
物体には mg の重力が掛かっていて、運動方向成分は mgsinθ です。
物体は静止しているので、力のつり合いの式を立てますと、
kx0 = mgsinθ
∴ x0 = \(\large{\frac{mg}{k}}\)sinθ
(問2)次に、物体を点P0から斜面に沿って距離 x だけ上方へ引き上げて静かに手を離すと、物体は下方に滑りはじめた。物体が再び点P0に達したときの物体の速さはいくらか。
『ばね振り子の力学的エネルギー』の『このように』で説明しましたが、鉛直ばね振り子においては、「自然長の位置」でなく「つり合いの位置」を中心とみなすと重力について考えなくてすみます。斜面上のばねについても同じです。
つり合いの位置、点P0を位置エネルギーの基準点とし、この地点での物体の速さを v0 とします。
すると、点P0での力学的エネルギーは \(\large{\frac{1}{2}}\)mv02 で、
スタート地点(最高地点)での力学的エネルギーは \(\large{\frac{1}{2}}\)kx2 で、
\(\large{\frac{1}{2}}\)mv02 = \(\large{\frac{1}{2}}\)kx2
であり、(この式は『鉛直ばね振り子の力学的エネルギー』の『各点でのおもりの速さ』の『O'点でのおもりの速さ』の式に相当します)
速さは
v02 = \(\large{\frac{k}{m}}\)x2
∴ v0 = \(\sqrt{\large{\frac{k}{m}}}\) x
と求められます。
(別解:自然長の位置を基準とした場合の方法も一応示しておきます)
x だけ引き上げた地点(最高点)での力学的エネルギーを考えてみますと、
・運動エネルギーは 0
・弾性エネルギーは \(\large{\frac{1}{2}}\)k(x - x0)2
・位置エネルギーは mg(x - x0)sinθ
よって力学的エネルギーは 0 + \(\large{\frac{1}{2}}\)k(x - x0)2 + mg(x - x0)sinθ ……①
(これは『鉛直ばね振り子の力学的エネルギー』のA点での力学的エネルギーに相当します)
点P0での力学的エネルギーを考えてみますと、
・運動エネルギーは \(\large{\frac{1}{2}}\)mv02
・弾性エネルギーは \(\large{\frac{1}{2}}\)kx02
・位置エネルギーは mg(- x0)sinθ
よって力学的エネルギーは \(\large{\frac{1}{2}}\)mv02 + \(\large{\frac{1}{2}}\)kx02 + mg(- x0)sinθ ……②
(これは『鉛直ばね振り子の力学的エネルギー』のO'点での力学的エネルギーに相当します)
力学的エネルギー保存の法則より ①式 = ②式。つまり、
\(\large{\frac{1}{2}}\)k(x - x0)2 + mg(x - x0)sinθ = \(\large{\frac{1}{2}}\)mv02 + \(\large{\frac{1}{2}}\)kx02 + mg(- x0)sinθ
∴ \(\large{\frac{1}{2}}\)k(x - x0)2 + mgxsinθ = \(\large{\frac{1}{2}}\)mv02 + \(\large{\frac{1}{2}}\)kx02
∴ \(\large{\frac{1}{2}}\)kx2 - \(\large{\frac{1}{2}}\)2kxx0 + \(\large{\frac{1}{2}}\)kx02 + mgxsinθ = \(\large{\frac{1}{2}}\)mv02 + \(\large{\frac{1}{2}}\)kx02
∴ \(\large{\frac{1}{2}}\)kx2 - kxx0 + mgxsinθ = \(\large{\frac{1}{2}}\)mv02 問1の kx0 = mgsinθ を代入して
∴ \(\large{\frac{1}{2}}\)kx2 - mgxsinθ + mgxsinθ = \(\large{\frac{1}{2}}\)mv02
∴ \(\large{\frac{1}{2}}\)kx2 = \(\large{\frac{1}{2}}\)mv02
∴ v0 = \(\sqrt{\large{\frac{k}{m}}}\) x
と同じ結果が得られます。(大変な労力です)
(問3)問2で物体が滑りはじめた後、ばねは自然の長さから最大いくら伸びるか。また、そのときの物体の加速度の大きさはいくらか。
物体は点P0を中心として振幅 x の単振動をするから、自然長からの最大の伸びは
x0 + x
(運動方程式 ma = F を立てて a を求める)
この位置での物体の加速度を a と置きます。
この位置での加速度は 0 ではありません。
一瞬物体の動きは止まりますが、それは速度が 0 なのです。
物体にはたらく力は左下方向を正として、
mgsinθ - k(x0 + x)
よって運動方程式は
ma = mgsinθ - k(x0 + x)
であり、問1の kx0 = mgsinθ を代入すると、
ma = mgsinθ - mgsinθ - kx
∴ ma = - kx
∴ a = - \(\large{\frac{k}{m}}\) x
これは左下方向を正とした場合の加速度であり、問題は加速度の大きさを聞いているので、
a = \(\large{\frac{k}{m}}\) x