[現行学習指導要領]
物理基礎
(1) 物体の運動とエネルギー
ア 運動の表し方
- (ア) 物理量の測定と扱い方
身近な物理現象について,物理量の測定と表し方,分析の手法を理解すること。 *- ここでは,物理量の測定と表し方,分析の手法を,身近な物理現象の解析を通して理解させることがねらいである。
- 例えば,人の歩行運動や斜面を降下する物体の運動などについて時間や位置を測定する実験を通して,測定誤差や実験の精度,有効数字などを考慮したデータの扱いや近似の考え方の初歩,及びグラフによるデータ整理の方法を学習することが考えられる。
- なお,ここで扱う学習内容は,「物理基礎」の学習全体に通じる手法であり,各項目の中でそれぞれの内容に合わせて取り扱うことも考えられ,学習の進展に応じて理解を深めさせていくことが大切である。
- (イ) 運動の表し方
物体の運動の基本的な表し方について,直線運動を中心に理解すること。 *- 中学校では,第1分野「(5)運動とエネルギー」で,物体の運動の速さと向きについて学習している。
- ここでは,変位や速度などの物体の運動の基本的な表し方について,直線運動を中心に理解させることがねらいである。
- 物体の運動を測定し,その運動を変位-時間のグラフや速度-時間のグラフで表す方法などを扱う。また,同一直線上を等速直線運動している物体の合成速度や相対速度についても扱う。
- (ウ) 直線運動の加速度
物体が直線上を運動する場合の加速度を理解すること。 *- 中学校では,第1分野「(5)運動とエネルギー」で,力が働く運動では運動の向きや時間の経過に伴って物体の速さが変わることについて学習している。
- ここでは,物体が直線上を運動する場合の加速度を理解させることがねらいである。
- 例えば,なめらかな斜面上の物体の直線運動を観察することや,電車やエレベーターなど身の回りの乗り物の直線的な加速度運動の様子を調べることが考えられる。
イ 様々な力とその働き
- (ア) 様々な力
物体に様々な力が働くことを理解すること。
摩擦力,弾性力,圧力及び浮力を扱うこと。また,空間を隔てて働く力にも定性的に触れること。 *- 中学校では,第1分野「(1)イ(ア) 力の働き」で,力の大きさと向き,ばねに加える力の大きさとばねの伸び,重さと質量の違いなど,また,「(3) 電流とその利用」で,帯電した物体間では空間を隔てて力が働くことについて学習している。
- ここでは,中学校での学習を発展させ,観察や実験などを通して,物体に様々な力が働くことを理解させることがねらいである。
- 物体に接して働く力として静止摩擦力,動摩擦力,弾性力,浮力,関連して圧力を,実験を通して扱う。また,垂直抗力,糸が引く力などを扱うことが考えられる。
- また,重力,静電気力,磁力などの空間を隔てて働く力も存在し,物体に接して働く力と同様に扱えることに触れる。
- (イ) 力のつり合い
物体に働く力のつり合いを理解すること。
平面内で働く力のつり合いを中心に扱うこと。 *- 中学校では,第1分野「(5)運動とエネルギー」で,2力のつり合いの条件,合力や分力の規則性などを学習している。
- ここでは,中学校での学習を発展させ,物体に働く力のつり合いについて理解を深めさせることがねらいである。
- 平面内の力のつり合いに関連して,力の合成・分解をベクトルで扱う。例えば小さなリングに複数のばねばかりを取り付け,いろいろな方向に同時に引いてリングを静止させる実験を行い,つり合いの条件を見いだすことなどが考えられる。
- (ウ) 運動の法則
運動の三法則を理解すること。
直線運動を中心に扱うこと。 *- 中学校では,第1分野「(5)運動とエネルギー」で,物体に力が働くときの運動及び力が働かないときの運動,等速直線運動について学習している。
- ここでは,中学校での学習を発展させ,直線運動を中心に慣性の法則,運動の第二法則,作用反作用の法則を理解させることがねらいである。
- 例えば,慣性の法則は,コイン落としやこれに類する実験を通して扱う。運動の第二法則は台車に一定の力を加えて加速度の大きさを測定する実験などで扱う。また,作用反作用の法則は2台の台車の押し合いなどの実験で扱うことが考えられる。
- (エ) 物体の落下運動
物体が落下する際の運動の特徴及び物体に働く力と運動の関係について理解すること。
自由落下,鉛直投射を扱い,水平投射,斜方投射及び空気抵抗の存在にも定性的に触れること。 *- 中学校では,第1分野「(5)運動とエネルギー」で,斜面に沿った落下運動などについて学習している。
- ここでは,物体が空中を落下する際の運動の特徴及び物体に働く力と運動の関係について理解させることがねらいである。
- 落下運動を運動の法則の身近な適用例として扱う。例えば記録タイマーや撮影装置を用いた実験などによって,落下運動は物体に重力が働いている結果として,鉛直方向に等加速度運動をしていることを扱う。水平投射,斜方投射については,水平方向の運動と鉛直方向の運動に分けて考えることができることに触れる。また,空気抵抗については,例えば,広げた紙片と丸めた紙片の落下の様子を比較するなど,身近なものを用いた簡単な実験により示すことが考えられる。
ウ 力学的エネルギー
- (ア) 運動エネルギーと位置エネルギー
運動エネルギーと位置エネルギーについて,仕事と関連付けて理解すること。
「位置エネルギー」については,重力による位置エネルギー,弾性力による位置エネルギーを扱うこと。 *- 中学校では,第1分野「(5)運動とエネルギー」で,仕事と仕事率,物体のもつエネルギーの量は他の物体になしうる仕事で測ることができることなどを学習している。
- ここでは,中学校での学習を発展させ,運動エネルギーと位置エネルギーについて,理解を深めさせることがねらいである。
- 例えば,なめらかな斜面を滑り降りた物体が衝突して別の物体を移動させたり,ばねを押し縮めたりする実験などを行い,物体の速さや仕事などの測定を通して,運動エネルギー,重力による位置エネルギー,弾性力による位置エネルギーの表し方について理解させる。
- (イ) 力学的エネルギーの保存
力学的エネルギー保存の法則を仕事と関連付けて理解すること。
摩擦や空気抵抗がない場合は力学的エネルギーが保存されることを中心に扱うこと。 *- 中学校では,第1分野「(5)運動とエネルギー」で,力学的エネルギーの総量が保存されることについて学習している。
- ここでは,中学校での学習を発展させ,力学的エネルギー保存の法則について,仕事と関連付けて理解を深めさせることがねらいである。
- 物体の運動エネルギーと位置エネルギーが相互に変換し,力学的エネルギーが保存されることを中心に扱う。例えば,単振り子やなめらかな斜面上の物体の運動などの実験が考えられる。
(2) 様々な物理現象とエネルギーの利用
ア 熱
- (ア) 熱と温度
熱と温度について,原子や分子の熱運動という視点から理解すること。
熱現象を微視的な視点でとらえ,原子や分子の熱運動と温度の関係を定性的に扱うこと。また,内部エネルギーや物質の三態にも触れること。 *- 中学校では,第1分野「(2) 身の回りの物質」で,物質の融解や蒸発を粒子のモデルと関連付けて学習している。
- ここでは,熱と温度について,原子や分子の熱運動という視点から理解させることがねらいである。
- 例えば,ブラウン運動を観察させるなどして,原子や分子の熱運動と温度との関係を定性的に扱い,内部エネルギー,物質の三態及び関連して絶対温度(熱力学温度)に触れる。
- (イ) 熱の利用
熱の移動及び熱と仕事の変換について理解すること。
熱現象における不可逆性にも触れること。 *- 中学校では,第1分野「(2) 身の回りの物質」で,物質の融解や蒸発,また,「(7) 科学技術と人間」で,様々なエネルギーとその変換,熱の伝わり方などについて学習している。
- ここでは,熱の移動及び熱と仕事の変換について理解させることがねらいである。
- 例えば,熱量計を用いた実験などを通して,熱量の保存,熱容量,比熱容量(比熱)及び潜熱を扱い,熱膨張にも触れる。また,例えば,ジュールの歴史的な実験などにも触れながら熱と仕事の変換を扱い,熱現象における不可逆性に触れる。なお,ボイルの法則やシャルルの法則を含めた理想気体の状態方程式,熱力学第一法則の理想気体への適用については,「物理(1)オ 気体分子の運動」で扱う。
イ 波
- (ア) 波の性質
波の性質について,直線状に伝わる場合を中心に理解すること。
作図を用いる方法を中心に扱うこと。また,定在波も扱い, 縦波や横波にも触れること。 *- 中学校では,第2分野「(2) 大地の成り立ちと変化」で,地震波の伝わり方について学習している。
- ここでは,波の基本的な性質について,直線状に伝わる場合を中心に理解させることがねらいである。
- 波が伝わる様子を波動実験器,ばねなどを用いて観察し,直線状に伝わる波の波長,振動数,波の伝わる速さなど基本的な量を扱う。波の重ね合わせや独立性,定在波(定常波)についても,観察や波形の作図などにより扱う。また,縦波と横波の違いにも,観察,実験を通して触れる。
- (イ) 音と振動
気柱の共鳴,弦の振動及び音波の性質を理解すること。
波の反射,共振,うなりなどを扱うこと。 *- 中学校では,第1分野「(1) 身近な物理現象」で,音について,発音体の振動,振動数,振幅及び音を伝える物質の存在などを学習している。
- ここでは,気柱の共鳴,弦の振動及び音波の性質を理解させることがねらいである。
- 例えば,波動実験器などを用いて,固定端と自由端での反射の現象を観察と波形の作図を通して理解させる。また,気柱共鳴実験,弦の振動実験や2つのおんさを用いた実験などにより,反射波の重ね合わせにより媒質内には定在波が現れることや,固有振動,共振,共鳴,うなりを扱う。うなりの学習においては,合成波の振動の形をコンピュータやオシロスコープで調べたり,波の重ね合わせを作図したりすることが考えられる。また,波がもつエネルギーにも触れる。
ウ 電気
- (ア) 物質と電気抵抗
物質によって抵抗率が異なることを理解すること。
金属中の電流が自由電子の流れによることも扱うこと。また,半導体や絶縁体があることにも触れること。 *- 中学校では,第1分野「(3) 電流とその利用」で,物質の種類によって抵抗の値が異なること,電流が電子の流れであることなどについて学習している。
- ここでは,物質の種類による抵抗の違いを抵抗率で表せることを理解させることがねらいである。
- 材質,長さ,断面積の異なる金属線の抵抗を調べる実験を通して抵抗率を扱い,電線の主な材質などを取り上げる。また,金属中の電流が自由電子の流れによることも扱い,物質の電気的性質によって導体,半導体,絶縁体と大きく区分できることにも触れる。なお,半導体のpn接合,それを含んだ回路及びキルヒホッフの法則については,「物理(3)ア(エ) 電気回路」で扱う。
- (イ) 電気の利用
交流の発生,送電及び利用について,基本的な仕組みを理解すること。
交流の直流への変換や電磁波の利用にも触れること。 *- 中学校では,第1分野「(3) 電流とその利用」で,コイルや磁石を動かすことにより電流が得られることについて学習している。
- ここでは,交流の発生,送電及び利用について,基本的な仕組みを理解させることがねらいである。
- 発電所の多くは交流発電機を用いていること,交流を変圧して送電していることを扱い,送電線での発熱にも触れる。また,電気器具の中には家庭に運ばれてきた交流を直流に変換して用いているものがあることにも触れる。さらに,交流に関連して電磁波が現代の社会生活に利用されていることに触れる。なお,電磁誘導を利用した交流発電については,「物理(3)イ 電流と磁界」で扱う。
エ エネルギーとその利用
- (ア) エネルギーとその利用
人類が利用可能な水力,化石燃料,原子力,太陽光などを源とするエネルギーの特性や利用などについて,物理学的な視点から理解すること。
電気エネルギーへの変換を中心に扱うこと。「原子力」については,関連して放射線及び原子力の利用とその安全性の問題にも触れること。 *- 中学校では,第1分野「(7) 科学技術と人間」で,様々なエネルギー資源の利用と開発及び環境保全について学習している。
- ここでは,人類が利用可能な水力,化石燃料,原子力,太陽光,風力などを源とするエネルギーの特性や利用などについて,電気エネルギーへの変換を中心に,これまでに学んだ物理学的な視点から理解させる。
- 例えば,エネルギー変換の仕組みや発電量を調べることなどが考えられる。原子力については,関連して,α線,β線,γ線,中性子線などの放射線の特徴と利用,線量の単位など,放射線及び原子力の利用とその安全性の問題にも触れる。その際,放射線がその性質に応じて,医療,工業,農業などで利用されていることに触れることが考えられる。
オ 物理学が拓く世界
- (ア) 物理学が拓く世界
「物理基礎」で学んだ事柄が,日常生活やそれを支えている科学技術と結び付いていることを理解すること。
日常生活や社会で利用されている科学技術の具体的事例を 取り上げること。 *- 中学校では,第1分野「(7) 科学技術と人間」で,科学技術の発展について学習している。
- ここでは,交通,医療,情報通信,建築,防災など,生活や環境への物理学の成果や応用に着目して,例えば次のような具体的な事例を取り上げ,物理学が拓く世界について認識を深めさせる。
- 新幹線の車両に生かされている技術
- 医療における放射線,MRI,レーザー,超音波の利用
- 情報通信技術及び人工衛星や光通信の利用
- ロボットの開発と利用
- 建築物の免震・耐震構造
物理
(1) 様々な運動
ア 平面内の運動と剛体のつり合い
- (ア) 曲線運動の速度と加速度
平面内を運動する物体の運動について理解すること。
物体の平面内の運動を表す変位,速度及び加速度はベクトルで表されることを扱うこと。 *- 「物理基礎」では,「(1) 物体の運動とエネルギー」で,直線上の運動について学習している。
- ここでは,平面内を運動する物体の運動について理解させることがねらいである。
- 平面内の運動を表す変位,速度,加速度がベクトルで表されることを扱う。また,関連して平面内の運動の合成速度,相対速度も扱う。
- (イ) 斜方投射
斜方投射された物体の運動を理解すること。
物体の水平投射や斜方投射における速度,加速度,重力の働きなどを扱うこと。また,空気の抵抗がある場合の落下運動にも触れること。 *- 「物理基礎」では,「(1) 物体の運動とエネルギー」で,物体の鉛直方向への落下運動を中心に学習している。
- ここでは,斜方投射された物体の運動を理解させることがねらいである。
- 例えば,簡単な投射装置を用いた実験などを行い,斜方投射された物体の運動は曲線運動であり,鉛直方向と水平方向に運動を分解して解析できることを理解させる。斜方投射における速度,加速度,重力の働きを扱い,また,空気抵抗については,例えば,速さに比例する抵抗力を受けるとした場合に触れる。
- (ウ) 剛体のつり合い
大きさのある物体のつり合いを理解すること。
力のモーメントのつり合いを扱うこと。また,物体の重心にも触れること。 *- ここでは,大きさのある物体のつり合いを理解させることがねらいである。
- 平面内で剛体に働く力と力のモーメントがつり合っている場合を,実験を通して扱う。また,日常生活とのかかわりの中で,防災などの観点から,物体の重心,関連して物体が転倒しない条件についても触れる。
イ 運動量
- (ア) 運動量と力積
運動量と力積の関係について理解すること。
運動量と力積がベクトルで表されること,運動量の変化が力積に等しいことを扱うこと。 *- ここでは,運動量と力積の関係について理解させることがねらいである。
- 例えば,バットやラケットでボールを打ち返すときの様子を写真や映像で示し,運動量と力積が ベクトルで表される量であり,物体の運動量の変化が物体に働く力積に等しいことを扱う。
- (イ) 運動量の保存
物体の衝突や分裂における運動量の保存を理解すること。 *- ここでは,物体の衝突や分裂における運動量の保存を理解させることがねらいである。
- 例えば,2台の台車などを用いた衝突や分裂の実験をそれぞれの台車の質量などを変えて行い,運動量保存の法則が成り立つことを扱う。
- (ウ) はね返り係数
衝突におけるはね返りについて理解すること。
物体の衝突の際の力学的エネルギーの減少も扱うこと。 *- ここでは,衝突におけるはね返りについて理解させることがねらいである。
- 例えば,いろいろな材質の球を床や机に垂直に落下させてはね返る高さを調べる実験を行い,はね返り係数を扱う。また,物体が衝突する際の力学的エネルギーの減少については,弾性衝突と非弾性衝突を取り上げ,はね返り係数と関連させて扱う。
ウ 円運動と単振動
- (ア) 円運動
円運動をする物体の様子を表す方法やその物体に働く力などについて理解すること。
等速円運動の速度,周期,角速度,向心加速度及び向心力を扱うこと。また,遠心力にも触れること。 *- ここでは,円運動をする物体の様子を表す方法やその物体に働く力などについて理解させることがねらいである。
- 例えば,糸に付けたおもりを回転させる実験や回転円盤装置を用いた実験などにより,円運動する物体の様子を表す方法やその物体に働く力などについて理解させる。その際,等速円運動の速度,周期,角速度,向心加速度及び向心力を扱う。また,観測者が加速度運動をするときの慣性力を扱い,慣性力である遠心力にも触れる。
- (イ) 単振動
単振動をする物体の様子を表す方法やその物体に働く力などについて理解すること。
単振動をする物体の変位,速度,加速度及び復元力を扱うこと。「単振動」については,ばね振り子と単振り子を扱うこと。 *- ここでは,単振動をする物体の様子を表す方法やその物体に働く力などについて理解させることがねらいである。
- 例えば,投影装置などによる観察や実験,作図などによって単振動と等速円運動を関連付けて扱うことが考えられる。単振動をする物体の位置,速度,加速度の表し方,単振動をする物体には変位に比例する大きさの復元力が働くことを扱い,単振動の具体例として,ばね振り子と単振り子を扱う。
エ 万有引力
- (ア) 惑星の運動
惑星の運動に関する法則を理解すること。
ケプラーの法則を扱うこと。 *- ここでは,惑星の運動に関する法則を理解させることがねらいである。
- 例えば,惑星の軌道データを示すことなどにより,ケプラーの法則を扱う。
- (イ) 万有引力
万有引力の法則及び万有引力による物体の運動について理解すること。
万有引力の位置エネルギーも扱うこと。 *- ここでは,万有引力の法則及び万有引力による物体の運動について理解させることがねらいである。
- 例えば,惑星の運動と人工衛星の運動を取り上げ,いずれも万有引力を受けたときの物体の運動として,統一的に理解されることを扱う。また,万有引力の位置エネルギーについても扱う。
オ 気体分子の運動
- (ア) 気体分子の運動と圧力
気体分子の運動と圧力の関係について理解すること。
理想気体の状態方程式,気体分子の速さ,平均の運動エネルギーなどを扱うこと。 *- 「物理基礎」では,「(2) 様々な物理現象とエネルギーの利用」で,原子や分子の熱運動と温度の関係について学習している。
- ここでは,気体分子の運動と圧力の関係を理解させることがねらいである。
- 理想気体について成り立つ法則として,ボイルの法則やシャルルの法則を含めた気体の状態方程式を扱う。また,気体分子の速さや平均の運動エネルギーと気体の圧力,絶対温度(熱力学温度)の関係を扱う。
- (イ) 気体の内部エネルギー
気体の内部エネルギーについて,気体の分子運動と関連付けて理解すること。
理想気体を扱うこと。 *- 「物理基礎」では,「(2) 様々な物理現象とエネルギーの利用」で,内部エネルギーの存在について学習している。
- ここでは,気体の内部エネルギーについて,気体の分子運動と関連付けて理解させることがねらいである。
- 理想気体について,内部エネルギーが絶対温度に比例することを扱う。
- (ウ) 気体の状態変化
気体の状態変化における熱,仕事及び内部エネルギーの関係を理解すること。
熱力学第一法則を扱うこと。 *- 「物理基礎」では,「(2) 様々な物理現象とエネルギーの利用」で,熱と仕事の変換について学習している。
- ここでは,気体の状態変化における熱,仕事及び内部エネルギーの関係を理解させることがねらいである。
- 等圧変化(定圧変化)などの気体の状態変化において,内部エネルギーを含めたエネルギー保存の法則として熱力学第一法則が成り立つことを扱う。また,関連して熱機関の熱効率や熱力学第二法則に触れることも考えられる。
(2) 波
ア 波の伝わり方
- (ア) 波の伝わり方とその表し方
波の伝わり方とその表し方について理解すること。
ホイヘンスの原理,水面波の反射・屈折及び波の式を扱うこと。 *- 「物理基礎」では,「(2)イ 波」で,直線状に伝わる波の基本的な性質について学習している。
- ここでは,波の伝わり方とその表し方について理解させることがねらいである。
- 波の伝わり方については,例えば,水波実験器を用いて水面上を伝わる波を観測させるなどして,ホイヘンスの原理,反射・屈折及び関連して屈折率を扱う。また,波の表し方については,波の式及び関連して位相を扱う。
- (イ) 波の干渉と回折
波の干渉と回折について理解すること。
水面波を扱うこと。 *- ここでは,波の干渉と回折について理解させることがねらいである。
- 例えば,水波実験器を用い,水面波の回折や干渉の観察を通して,その性質を扱う。
イ 音
- (ア) 音の干渉と回折
音の干渉と回折について理解すること。 *- 「物理基礎」では,「(2)イ 波」で,気柱の共鳴,弦の振動及び音の性質について学習している。
- ここでは,音の干渉と回折について理解させることがねらいである。
- 例えば,クインケ管による実験などを通して音の干渉を扱う。また,音の回折を扱い,関連して音の屈折にも触れる。
- (イ) 音のドップラー効果
音のドップラー効果について理解すること。
観測者と音源が同一直線上を動く場合を扱うこと。 *- ここでは,音のドップラー効果について理解させることがねらいである。
- 音源や観測者が同一直線上を動いているときに観測される現象を扱う。また,音源が音速以上の速さで動いているときに起こる現象に触れることも考えられる。
ウ 光
- (ア) 光の伝わり方
光の伝わり方について理解すること。
光の速さ,波長,反射,屈折,分散,偏光などを扱い,鏡やレンズの幾何光学的な性質については,基本的な扱いとすること。また,光は横波であることや光のスペクトルにも触れること。 *- 中学校では,第1分野「(1) 身近な物理現象」で,光の反射や屈折の規則性及び凸レンズの働きについて学習している。
- ここでは,中学校での学習を発展させ,光の伝わり方について理解させることがねらいである。
- 反射,屈折,分散,偏光などについて,観察,実験を通して扱い,光の速さ,波長も扱う。鏡とレンズの幾何光学的な性質については,凹面鏡や単一レンズの焦点の存在や光の進路の規則性を扱う。また,例えば,偏光板の実験やプリズムを用いた光の観察などを通して,光は横波であることや光のスペクトルにも触れる。
- (イ) 光の回折と干渉
光の回折と干渉について理解すること。
ヤングの実験,回折格子及び薄膜の干渉を扱うこと。 *- ここでは,光の回折と干渉について理解させることがねらいである。
- 観察,実験を通して,光の回折,干渉を理解させる。その際,ヤングの実験,回折格子及び薄膜の干渉を扱い,光路長,反射による位相のずれについても触れる。また,光の干渉については,例えば,くさび形空気層やニュートンリングの実験を行うことも考えられる。
(3) 電気と磁気
ア 電気と電流
- (ア) 電荷と電界
電荷が相互に及ぼし合う力や電界の表し方を理解すること。
静電誘導も扱うこと。 *- 中学校では,第1分野「(3) 電流とその利用」で,静電気と電流について学習している。
- ここでは,電荷が相互に及ぼし合う力や電界(電場)の表し方を理解させることがねらいである。
- 電荷が相互に及ぼし合う力,電気量の保存,電界の性質,電気力線,静電誘導を扱う。例えば,摩擦帯電や箔検電器の実験,電界の様子の観察などを行うことが考えられる。
- (イ) 電界と電位
電界と電位の関係を理解すること。 *- ここでは,電界と電位の関係を理解させることがねらいである。
- 電荷の移動と仕事の関係,電界と電位の関係を扱い,関連して実用上の電位の基準点に触れる。例えば,導電性の紙を使って等電位線を調べる実験などを行うことが考えられる。
- (ウ) コンデンサー
コンデンサーの性質を理解すること。
コンデンサーの接続にも触れること。 *- ここでは,コンデンサーの性質を理解させることがねらいである。
- 例えば,手回し発電機による充電及び放電,平行板コンデンサーの電気容量を調べる実験などを行い,充電と放電,電気容量,空気中に置かれた平行板コンデンサーなどの基本的な性質を扱う。コンデンサーの接続における合成容量に触れ,また,電気容量と誘電体との関係にも触れることが考えられる。
- (エ) 電気回路
電気回路について理解すること。
抵抗率の温度変化,内部抵抗も扱うこと。また,半導体にも触れること。 *- 中学校では,第1分野「(3) 電流とその利用」で,電流・電圧と抵抗,回路と電流・電圧について学習している。また,「物理基礎」では,「(2)ウ 電気」で,物質によって抵抗率が異なること,電気の利用について学習している。
- ここでは,電気回路について理解させることがねらいである。
- キルヒホッフの法則,抵抗率の温度変化,電池の起電力と内部抵抗,ホイートストンブリッジ,電球の電流特性などを扱い,半導体については,pn接合の特性に触れる。例えば,電池の起電力と内部抵抗の測定,電球やダイオードの電流特性,ホイートストンブリッジによる抵抗値の測定などを行うことが考えられる。
イ 電流と磁界
- (ア) 電流による磁界
電流がつくる磁界の様子を理解すること。
直線電流と円電流がつくる磁界を中心に扱うこと。 *- 中学校では,第1分野「(3) 電流とその利用」で,電流がつくる磁界について学習している。
- ここでは,電流がつくる磁界の様子を理解させることがねらいである。
- 直線電流の回り,円形電流の中心,ソレノイドの内部にできる磁界を扱う。例えば,方位磁針や磁力線観察カードを用いて観察,実験を行うことが考えられる。また,関連して磁性体,地磁気について触れることが考えられる。
- (イ) 電流が磁界から受ける力
電流が磁界から受ける力について理解すること。
ローレンツ力にも触れること。 *- 中学校では,第1分野「(3) 電流とその利用」で,磁界中の電流が受ける力について学習している。
- ここでは,電流が磁界から受ける力について理解させることがねらいである。
- 電流が磁界から受ける力を表す式を扱い,ローレンツ力にも触れる。その際,例えば,荷電粒子の運動の観察などを行うことが考えられる。
- (ウ) 電磁誘導
電磁誘導と交流について,現象や法則を理解すること。
電磁誘導の法則を中心に扱い,自己誘導,相互誘導及び交流の発生も扱うこと。また,交流回路の基本的な性質にも触れること。 *- 中学校では,第1分野「(3) 電流とその利用」で,コイルや磁石を動かすことにより電流が得られることについて学習している。また,「物理基礎」では,「(2) 様々な物理現象とその利用」で,交流の発生,送電及び利用について学習している。
- ここでは,電磁誘導と交流について,観察,実験を通して現象や法則を理解させることがねらいである。
- 電磁誘導については,コイルを貫く磁束が変化するとき及び導線が磁束を横切るときに生じる誘導起電力,自己誘導,相互誘導,交流発電機の仕組みなどを扱う。また,関連してうず電流の観察,実験を行うことも考えられる。
- 交流回路については,コンデンサーやコイルのリアクタンスに触れる。また,関連して抵抗とコンデンサーとコイルを直列につないだ回路のインピーダンスにも触れる。
- (エ) 電磁波の性質とその利用
電磁波について,性質とその利用を理解すること。
電気振動や電磁波の発生にも触れること。 *- ここでは,電磁波について,性質とその利用を理解させることがねらいである。
- 電磁波の基本的な性質,電波の利用を扱い,電気振動や電磁波の発生にも触れる。例えば,電気振動の波形の観察,ヘルツの実験の再現などを行うことが考えられる。また,関連して物体からの熱放射に触れることも考えられる。
(4) 原子
ア 電子と光
- (ア) 電子
電子の電荷と質量について理解すること。
電子に関する歴史的な実験にも触れること。 *- 中学校では,第1分野「(3) 電流とその利用」で,電子の存在について学習している。
- ここでは,電子の発見に関する歴史的な実験にも触れながら電子の電荷と質量について理解させることがねらいである。
- 電子の比電荷,電気素量について扱い,例えば,電気素量の測定,真空放電や陰極線の観察,実験などを行う。
- (イ) 粒子性と波動性
電子や光の粒子性と波動性について理解すること。
光電効果,電子線回折などを扱い,X線にも触れること。 *- 「物理基礎」では,「(2) 様々な物理現象とその利用」で,波の性質,太陽光のエネルギーの利用について学習している。
- ここでは,電子や光の粒子性と波動性について理解させることがねらいである。
- 光電効果,光量子仮説,電子線回折,物質波などを扱い,例えば,プランク定数の測定や光電効果の観察,実験などを行う。また,X線の性質や利用についても触れる。
イ 原子と原子核
- (ア) 原子とスペクトル
原子の構造及びスペクトルと電子のエネルギー準位の関係について理解すること。
水素原子の構造を中心にスペクトルと関連させて扱うこと。 *- 中学校では,第1分野「(6) 化学変化とイオン」で,原子が電子と原子核からできていること,原子核が陽子と中性子でできていることについて学習している。
- ここでは,原子の構造及びスペクトルと電子のエネルギー準位の関係について理解させることがねらいである。
- 原子の構造については,例えば,歴史的なα粒子の散乱実験などに触れながら扱う。また,原子が出す光のスペクトルと電子のエネルギー準位の関係については,スペクトルの波長に規則性があること,ボーアの原子モデルなどを扱い,例えば,水素原子のスペクトルの観察などを行う。
- (イ) 原子核
原子核の構成,原子核の崩壊及び核反応について理解すること。
質量とエネルギーの等価性にも触れること。 *- 「物理基礎」では,「(2) 様々な物理現象とその利用」で,放射線及び原子力の利用について学習している。
- ここでは,原子核の構成,原子核の崩壊及び核反応について理解させることがねらいである。
- 原子核の構成,原子核の崩壊,半減期,核分裂,核融合,原子核反応を扱い,質量とエネルギーの等価性にも触れる。例えば,放射線計測,霧箱を用いた放射線の観察などを行うことが考えられる。
- (ウ) 素粒子
素粒子の存在について知ること。 *- ここでは,素粒子の存在について知ることがねらいである。
- クォークとレプトンなどの素粒子の存在と基本的な力などについて触れる。
ウ 物理学が築く未来
- (ア) 物理学が築く未来
物理学の成果が様々な分野で利用され,未来を築く新しい科学技術の基盤となっていることを理解すること。
物理学の発展と科学技術の進展に対する興味を喚起するような成果を取り上げること。 *- ここでは,物理探査,ナノテクノロジー,物質科学,バイオメカニクス,宇宙,先端の物理学の理論などに着目して,今後の発展が期待されている物理学とその応用について,例えば次のような具体的な事例を紹介し,物理学が科学技術の基盤となっていることを理解させるとともに物理学が築く未来への夢をはぐくむ。
- 物理探査や資源開発,環境保全への応用
- ナノテクノロジーやナノマシンの開発
- 量子コンピュータの開発
- バイオメカニクスの開発と医療・福祉への利用
- 核融合発電などの新しいエネルギー資源の開発や省エネルギーシステムの開発
- 宇宙の始まり,宇宙の構造,物質の起源に関する研究
- ブラックホールや時空に関する研究
- 脳科学や人工知能への物理学の応用
- 他の科学と融合し人類の未来に貢献する可能性